日々(Spring mix)

ライナーノーツ writer/河原そう


『 日々(Spring mix) 』 ライナーノーツ  writer/河原そう


藤 慎太郎という人。

その人は、情報がものすごく詰め込まれた昨今のJ-POPとは、
逆説的に進んでいっているシンガーだと僕は思っています。


出会った頃から、
空間的、そして行間的な「余白」「余韻」を、
ものすごく楽しんでいる人だった。

全てを言わない。全てを説明しない。

その「余白」と「余韻」から、
お聞きになったリスナーの皆さんが、
どんな感覚になるのか、
どう受け取ってもらえるのかを、
とても楽しんでいるように思っていた。


そんな、藤 慎太郎が、「日々」というシングルを配信でリリースする。
拝聴させていただいた際、
通常のライブスタイルのようなアコースティック感はなく、
打ち込みスタイルで、
且つ、「あるフレーズ」が何度も繰り返して進んでいく曲だった。

僕の中では、
いつものアコースティック感がないことには、特に驚きはなかった。
ただ、一つ。驚いたことがある。

「日々」というタイトルだ。

こんなにもありふれたテーマは、
もうかなり使い古されて、
何回も何回も様々なミュージシャンに擦りに擦られてきたテーマ。

そんなテーマを、藤 慎太郎はどう調理するんだとろう、と。
その驚きと興味と好奇心が、僕の中では先行していった。

ーーーーー

藤 慎太郎を知る以前より知るリスナーの一人として、
僕の受けとったメッセージは、
「日々を新しく変えて行くことを求めたりするのでなくて、
ありふれた中にある景色、変化、色づきを気が付けるかどうかが、
日々を変化させて行く、進めて行く」ということじゃないか、
ということでした。

コロナ禍のなかでこれまであった「日々」という概念が、
ことごとく打ち砕かれました。
もうこの2年で、僕たちの日々は、
それの前とは全く違う日々になっています。


曲の冒頭で、
夢の中で物語はゆっくりと色をつけ始めます。

光の声がした。

光は「色」を識別させる大事なものです。
なんとなく、それはむこうの方から。

夢から覚めた朝。
開けるドアは、、、みなさんにとって、どんな彩りを持った景色でしょう?

どんな状況であっても、筆者は願っていることを、
サビで繰り返し歌っています。
「春の風が吹いて、また何かが始まってゆくみたいに、
穏やかな日々が君のそばにありますようにー」

 

このライナーノーツをご覧の皆様の、
コロナ禍の約2年間は、穏やかでしたか?

「穏やかでした!」と威勢良く言える方は、ほとんど少ないと思います。
きっとこの約2年間。
みなさん、
それぞれの立場で、
それぞれの場所で、
それぞれの考え方を持って、
それをいろんなカスタマイズをしながら、
なんとかどうにか過ごしてきた「日々」だったと思います。

「穏やかだった」とは、なかなか言えない日々だった思います。

ですが。
その穏やかじゃない「日々」すら、
約2年の間に、もはや当たり前の「日々」になりつつあります。

それがきっと、作詞者(藤 慎太郎)の指す
(現状は)「変わらない風景」
(このコロナ禍は)「先の見えないような想定」の繰り返し。
文字通り、このフレーズは2回繰り返されます。

そういう「日々」の中に、
大輪ではなく、枝の先から、花が咲いて行く。
そんなフレーズを、余韻を持って、余白を十分に生かして、
藤 慎太郎は表現しています。


「先が見えない」ことや「変わらないこと」は、
「余白」なんだと藤 慎太郎は言いたいんじゃないか、と感じるフレーズです。


曲は淡々と穏やかに進行していきます。

最後の最後に。
「光を感じながら、余白ある日々を」というワードが出てきます。

前述にあったように
「光の声がなんとなく向こうの方から聞こえてくる」ことすら
それは「余白」であり、「先が見えないこと」であり、
当たり前に繰り返している「変わらないこと」なんだと思います。

だけど、そんな中でも、
そんな『日々』だからこそ「枝の先に花、開く」。

 

そう信じたいじゃないですか。
そう思っていたいじゃないですか。
そうでなければ、何のための、音楽なのか。リリックなのか。
何のために、僕たちは約2年間近く、コロナと向き合ってきたのか。


この曲は、同じフレーズがなんどもループ、繰り返されています。

そうです。
同じことがなんども繰り返されて進んで行く。

それも「日々」です。

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感染者がまた爆発的に増えている昨今、
またしても暗い気持ちになったり、
穏やかな気持ちではいられないかもしれません。
そんな気持ちも、何回この約2年で繰り返したでしょうか。


ですが、
僕たちは、この藤 慎太郎の記した「日々」のように、
繰り返しの毎日の中に、光の声を感じ、色を添えて、
そして、そこに余白を見出しながら、「日々」を進めていきたいものです。


ゆっくり、じっくりと。
一音一音、一語一語を、噛み締めながら、
なんどもループして聞いていただきたいと、
いちリスナーとして感じております。


藤 慎太郎くんの、今後の日々と、
今後の作品にも期待を祈りを込めて、心待ちにしているリスナーの一人のライナーノーツでした。

 

このライナーノーツをご覧のみなさまにも、
穏やかな日々が、すぐそばにありますようにー。